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キャラ名 +目次 プロフィール 概要基本 長所 短所 コマンド表 コマンド表 技解説通常技 特殊技 投げ技 必殺技 ハートヒートアタック グレートヒートアタック コンボ その他関連動画 台詞集 コメント欄 プロフィール [部分編集] imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (fb6501ca.jpg) 本名 キャラ名 プロフィールプロフィール スタイル スタンド 星の白金 (スタープラチナ) 登場部 第3部 スターダストクルセイダース 声優(日本語) 〇〇 概要 [部分編集] 基本 長所 短所 コマンド表 [部分編集] コマンド表 分類 技名 コマンド 備考 特殊技 技名 コマンド 技名 コマンド 必殺技 技名 コマンド ├→技名 ├→コマンド └→技名 └→コマンド 技名 状態/コマンド 技名 コマンド ハートヒートアタック 技名 コマンド グレートヒートアタック 技名 コマンド スタイル 技名 コマンド その他 技名 コマンド 技解説 通常技 [部分編集] 本体 通常技 ダメージ 属性 解説 立ち弱 14 - 解説 立ち中 24 - 解説 立ち強 37 - 解説 屈弱 13 - 解説 屈中 22 - 解説 屈強 36 - 解説 J弱 16 - 解説 J中 21 - 解説 J強 38 - 解説 スタンド 通常技 ダメージ 属性 解説 立ち弱 15 - 解説 立ち中 25 - 解説 立ち強 38 - 解説 屈弱 14 - 解説 屈中 23 - 解説 屈強 37 - 解説 J弱 18 - 解説 J中 28 - 解説 J強 39 - 解説 特殊技 [部分編集] 通常技 ダメージ コマンド 属性 解説 技名本文 ダメージ本文 コマンド本文 属性本文 解説本文 投げ技 [部分編集] 通常技 ダメージ コマンド 属性 解説 技名本文 ダメージ本文 コマンド本文 属性本文 解説本文 必殺技 [部分編集] 通常技 ダメージ コマンド 属性 解説 技名本文 ダメージ本文 コマンド本文 属性本文 解説本文 ハートヒートアタック [部分編集] 通常技 ダメージ コマンド 属性 解説 技名本文 ダメージ本文 コマンド本文 属性本文 解説本文 グレートヒートアタック [部分編集] 通常技 ダメージ コマンド 属性 解説 技名本文 ダメージ本文 コマンド本文 属性本文 解説本文 コンボ [部分編集] コンボ ダメージ コマンド ダメージ 解説 その他 [部分編集] 関連動画 台詞集 +クリックで展開 アピール あああ 勝利時 あああ 登場時 あああ コメント欄 情報を提供したい、または間違いを修正したいけどwiki編集法がわからない、自信がない、面倒だという方はこちらのコメント欄にお願いします。 その他意見もこちらへどうぞ。 (質問はよくある質問のコメント欄によろしくお願いします。) 名前
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日蝕まで残り三日の昼下がり。 シエスタやマルトー、そしてクラスメイト達に別れの挨拶を告げて回ったジョセフは、授業を自主休講したギーシュやキュルケ達と共にウェールズの居室でチェスやティータイムを楽しみ、世間話に興じていた。 内容としてはさして意味のあるものではない。ジョセフがルイズに召喚されてからの様々な思い出話や、ジョセフの来た世界、地球の話やハルケギニアの話。 ギーシュやキュルケはそんな他愛ない話を絶え間なく続けることで、不意に訪れるしんみりした沈黙を出来る限り排除しようとしていた。 「いやそれにしてもジョジョ、聞けば聞くほど君の話は荒唐無稽だな。いくら大国とは言え、一つの国に何億人もいたり、しかもそれだけの国を統べる王を入れ札で決めるだなんて考えられない。 そんなにころころ王が代わっていたら、代わる度に大事になるんじゃあないか?」 「うむ、こっちほど王……というか、大統領や首相の権力ってのは大きくないがそれなりにデカいし変わるとなりゃ大事だからな。上の頭がすげ変わる間も国の運営が成り立つようにしとるんじゃ。わしの住んどる国なんか四年ごとにやる入れ札はマジお祭り騒ぎだ」 「へええ! 聞けば聞くほどとんでもない世界だなあ、君の世界は!」 「こっちじゃあまーだやらん方がいいな。やるとしたら、平民の半分以上が読み書きできるくらいになって、選ぶ人間の良し悪しを判断できるよーになったらやっていいかもしらんが……まぁ、無理にやらんでもいいんじゃね? 六千年も同じシステムが続いてるならそれでもいいと思うしな」 好奇心と口の回るギーシュが聞き役になり、ジョセフにインタビューしている今の話題は「それぞれの世界の政治形態について」だった。 ジョセフはこれと言った政治思想がある訳でもない。強いて言えば資本主義支持者で、世界有数の大富豪なスピードワゴン財団くらい稼がなくていいから、食うに困らない生活が維持できればそれでいいと思っているくらいである。 具体的に言えば屋敷の使用人達に払う給料が滞らず、夏や冬のバカンスに専用ジェットで向かう家族旅行や社用旅行で金に糸目をつけず遊び呆けたり……そんなささやかなものでいいと考えていた。 だから魔法を使える貴族が王権の元に政治を司るハルケギニアの治世自体に文句をつける気はない。 「それで上手く回ってるなら別に口出す必要もない。わしゃアカでもなんでもないし」という理由もあるし、この世界に永住する訳でもない通りすがりの異邦人でしかないのも、大きなウェイトを占めている。 ましてや三日後には元の世界に帰るのだから、自分から進んでやりたくもない瑣事に関わる必要などこれっぽっちもないのだった。 そんなことをしている暇があるなら、キュルケにケーキをあーんしてもらったり、タバサにチェスでコテンパンにされている方がよっぽど有意義というものである。 さて、タバサに三戦三惨敗という華々しい戦歴を打ち立て、実力の差を十分に自覚したところでジョセフは椅子から立ち上がりつつ、大きく伸びをした。 「んん……ちっと外の空気吸ってくる」 「行ってらっしゃい」 気ままに読書やお茶の時間を楽しんでいる友人達にひらりと手を振り部屋を出たジョセフは、小さく欠伸などしつつ風の塔から降りた。 これから日蝕までの間、別れの挨拶を告げる友人達のリストを頭に浮かべて芝生を歩き出したジョセフの名を大声で呼ぶ者がいた。 「おぉい、ミスタ・ジョースター! 出来た! 出来たぞ! 調合が出来た!」 茶色の液体が詰まったワインボトルを手に持ち、息せき切って走ってくるのはコルベールだった。 「マジか! もう出来たのか!」 「もうも何も、昼前には錬金出来たんだが学院中を探し回ってもミスタ・ジョースターが見つからなかったのだ。一体どこに行っていたんだね?」 不思議そうに尋ねるコルベールに、ジョセフはニカリと笑みを浮かべた。 「すまんな、ちょっと外に出とった。どれ、ちょっと確認させてくれ」 ワインボトルの栓を開け、飲み口から漂ってくる臭いを手で鼻元に仰ぎ寄せて嗅ぐ。 ゼロ戦の燃料タンクに残っていたそれと同じ刺激臭に、おお、と感嘆の声を上げた。 「やるなぁセンセ! まさかこんなに早く出来るとは正直思っとらんかった!」 「なに、原料と完成品の二つが揃っていたのでね。これが『燃える水』を手に入れてなかったらもう少し時間がかかったかもしれないが、これであの『ゼロ戦』は飛ぶという事だ!」 「うむ! で、ワイン樽五本分のガソリンは何日くらいで錬金出来る?」 「そうだな……私の精神力なら、他に魔法を使わなければ二日以内に五本は可能だ」 「グッド! じゃあ、樽一本くらい余分に作れるか? せっかくだから試験飛行しよう。わしが乗って帰ったらもう二度と乗れんからな、コルベールセンセには一度経験してもらいたい。『技術で作り出したモノで空を飛ぶ』という経験をな!」 ジョセフの提案に、コルベールの顔には見る見るうちに『誕生日にお前の欲しがっていた玩具を買ってあげる』と親に言われた子供のような笑みが広がった。 「そうだ忘れていた、ミスタ・ジョースターが地球に帰ってしまえば『ゼロ戦』に乗れる機会はなくなってしまうんだ! ならば明日の朝までに一本用意しておこう!」 今すぐにでも研究室に戻って錬金を再開すべく走り出そうとしたコルベールの手をつかんで留めた。 「待て待てセンセ、せっかくガソリンの試作品があるんだから作動実験もしてみよう。作っては見たが動きませんでしたじゃどーにもならんだろ」 「それもそうだな! では早速実験してみよう!」 二人でアウストリの広場に向かい、燃料コックにガソリンを注ぎ込む。 「よしよし。さてプロペラを動かさにゃならんなー……」 そう呟くと、ちら、と横で目を輝かせているコルベールを見た。 「まァいっか」 構わずに左手からハーミットパープルを発現させる。杖も詠唱もなく突然現れた紫の茨は、メイジであるコルベールの目には明らかな実像となって映っていた。 「ミ、ミスタ・ジョースター!? それは一体……」 当然、未知の現象を突然目撃することになったコルベールは驚きの声を上げた。 「どうせ三日後に帰るからコレもバラすことにしよう。これは『スタンド』、わしの住む世界では稀にこの能力を持つ人間や動物が現れることがある。これがわしのスタンド、ハーミットパープル。 わしのいた世界ではスタンドはスタンド使いにしか見えんかったが、こっちの世界ではメイジには例外なく見えるらしい。多分魔力とかそんなのが関係しとるんじゃろうが、まぁ今はそんなこたァどーだっていい」 眼鏡の奥の目を大きく見開いたままのコルベールからゼロ戦に視線を移すと、静電気が走るような破裂音を放ちながら、ハーミットパープルを機体に入り込ませていく。 「何をしてるんだミスタ・ジョースター! そんなことをしたら、『ゼロ戦』が……!?」 壊れる、と続くはずだった言葉は驚きと共に飲み込まれてしまった。茨が入り込んだように見えた箇所は穴の一つも開いておらず、まるで機体から茨の彫刻が生えているようにも見えた。 「な……なんだねこれは。『スタンド』……とか言ったか? 先住魔法……ではないのか」 持ち前の強い好奇心を発揮し、恐る恐るながらもまじまじとハーミットパープルの観察を開始するコルベール。 「これはわし自身の生命エネルギーが作り出す像でな。基本的に人それぞれの性格やらなんやらで持つ能力や姿形が変わる。つまり同じスタンドは存在しないと言ってもいいだろう。わしのハーミットパープルの能力は念写に念聴、そして機械操作。 プロペラを動かす為には中のクランクを動かさなきゃならんのだが、それを動かす道具がないんでハーミットパープルで代用する」 「あ、ああ」 いきなり理解を越えた単語が連ねられるが、それでもコルベールはおおよその意味は掴んでいた。 「さあセンセ、ちとコクピットは狭いんでな。上からわしが操作してるトコを見てくれ」 コクピットの風防から中に入ったジョセフの頭上に、レビテーションの魔法をかけたコルベールが浮き上がった。 左手が欠損している為にパイロットにはなれなかったものの、セスナを始めとしたプロペラ機の操縦は普通に出来るジョセフである。それに加えてゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴの能力が、初めて乗るゼロ戦の起動手順を逐一頭の中に浮かばせる。 一つ一つの手順の意味をコルベールに教え、コルベールはジョセフから聞いた言葉を興味深げに聞く。 ゆるゆると回っていたプロペラは始動したエンジンの力を借りて大きく回り、スクウェアメイジが起こす風にも匹敵するだけの風力を発生させた。 大日本帝国の名機であるゼロ戦は現役である事を確認したのを満足げに見届けたジョセフは、しばらくエンジンを動かした後で点火スイッチを切ると、もう今にも歓喜を爆発させそうなコルベールに向かって満面の笑みとウィンクと、当然親指も立てて見せた。 コルベールも、立てられた親指が何を示すか一瞬考えた後、ちょっとぎこちない手付きで親指を立て返し、嬉しそうな笑顔を返した。 「やったぞセンセ、バッチリじゃッ! お次は飛行実験だ、ちぃとギュウギュウ詰めだがセンセに空の旅をプレゼントしようッ!」 「おおおお! すごい、すごいぞミスタ・ジョースター! この炎蛇のコルベール、今まで生きてきた人生の中でこんなに胸を高鳴らせたことは無いッ! 今のこの感情の昂ぶりなら、一晩で樽五本分のガソリンすら錬金出来てしまいそうだッ!」 「まあまあセンセ、それで精神力を使い切ってはつまらんだろ。今夜は程々にガソリンを錬金して、ベストコンディションで飛行実験に挑もうじゃないか」 「ああ、そうだな! では私は早速錬金に取り掛かる、それではまた明日会おう!」 「おー、じゃあ朝メシ食った後にここ集合なー」 居ても立ってもいられないとばかりに走り出したコルベールの背に手をひらひらと振ってから、やっとジョセフは茜色に変わり行く空に気付いた。 「いかんいかん、もうこんな時間か。あいつらも飛行実験誘ってみようか」 今日の晩メシなんじゃろなァ~、と即席の節をつけながら友人達を待たせている部屋へと戻っていった。 そして次の日の朝。 ゼロ戦が鎮座するアウストリの広場には、ルイズとウェールズを除く宝探しメンバー、そしてコルベールが集まっていた。 魔法で浮かせた樽からガソリンをタンクに移し変え終わったのを確認してから、ジョセフはもったいぶった動作で友人達に向き直り、帽子を取って恭しく一礼した。 「やあやあ、お集まりの善男善女の皆様方。本日はお日柄も良く、これよりゼロ戦の飛行実験を粛々と執り行いたいと存じます」 雲一つ無い、という訳でもないが特に大きな雲があるわけでもない。十分に晴れた青い空がトリステインの上にあった。 「確かに今日はいい天気だね。で、このぜろせん、とやらは本当に飛ぶのかね? 僕は今でもコレが飛ぶだなんて少しも信じられないんだが。なあヴェルダンデ」 「タルブの村のおじいさんおばあさんは、何人かこのぜろせん、が飛んでいるところを見たって言ってましたけど……」 この期に及んで何回言ったか判らない疑問を口にするギーシュに、シエスタがおずおずと意見を述べた。 「まあまあ、一見は百聞に如かずって言うじゃろ。なんなら賭けてもいいぞ、また金貨二百枚と一年執事の権利を賭けてな」 ニシシ、と笑うジョセフに、ギーシュの顔は渋すぎる茶を無理矢理飲まさされたみたいになった。 「君はもう故郷に帰るんだろ? なんてことだ、賭け金も渡せないうちに帰られるだなんてグラモン家の四男としてこれほど屈辱的なことはないというのに」 「そうそう、忘れてたけど私も二百エキュー貰えるんだったわね。なんならダーリンの分も合わせて私が預かっておこうかしら」 思わず口を滑らせた事に気づいた時にはもう遅い。猫の様なニンマリとした笑みを浮かべるキュルケに、ギーシュはしかめていた顔を更に大きくしかめた。 「……ジョジョ本人に手ずから渡すことにするよ、僕は」 「あらそれは残念」 そもそもゼロ戦が飛ぶということ自体を信じていないギーシュとキュルケは、ゼロ戦にかかりきりのジョセフとコルベールをさておいてそんな軽口で盛り上がっていた。 「さて、んじゃいっちょ行くとするか。センセ、何とか詰めてくれ」 腰に下げていたデルフリンガーを足元の隙間に入れ、コルベールが乗れるスペースを何とか確保する。 そもそもゼロ戦は一人乗りである。座席背部にあった通信機を取り除いたことで二人が乗れないことはない、くらいの広さは辛うじて確保できていたが、そもそも身長195cm、体重97kgもあるジョセフが乗ればそれだけでコクピットのスペースを大きく取ってしまっていた。 コルベールも細いとは言え立派な成人男性の体格を持っている。乗ることが不可能ではないのだが、ぎゅうぎゅう詰めになるのは致し方のないことだった。 「ああ、いや確かに狭いが何とか……というか、ミスタ・ジョースターがこんなに大柄なのが問題ではないのかね?」 「そもそもコレ一人乗りだもんよ。メッサーシュミットなら三人乗れるんじゃが贅沢は言っとれんだろ」 コクピットに乗り込むだけでいい年したジジイとハゲ上がった大人が言い争いしながらも、何とか乗り込むことは出来た。 「よし、んじゃ行くとするか」 クラッチにハーミットパープルを這わせてエンジンを始動させると、プロペラが音を立てて回り始める。計器が示す数値も異常が無いことを教えてくれる。 ブレーキを放すと、ゼロ戦がゆっくりと動き出す。おおよそ目星をつけていた離陸点に辿り着くが、ガンダールヴのルーンとジョセフ本人の経験がゼロ戦が飛び立てる滑空距離に少々足らない、と見えてしまった。 アウストリの広場が狭いわけではないが、それでも飛行機一機が飛び立つ為に必要な距離は並大抵のものではないと言う事だった。 ジョセフは閉じた片目の上に手を翳し、学院の敷地を取り囲む高い塀に舌打ちした。あれがもう少し低ければこの距離でも十分離陸は出来ただろう。 「ううむ。ちと距離が足らんな……あそこの高い壁を吹き飛ばせば何とか行けるかもしらんが」 しょっぱなから物騒な提案に思考が進んだジョセフをたしなめたのは、足元に転がっているデルフリンガーだった。 「相棒、そんな短絡的な方法取んなくても外にいる貴族の娘っ子達に風を起こしてもらえればいけるぜ」 「ああ、それなら行けるか」 「あのちまいのは風のトライアングルだろ? なら大丈夫だ」 風防から腕を出してハーミットパープルをタバサに伸ばす。骨伝導で「広場のあっこらへんに立って思い切り向かい風を吹かせてくれ」と頼むと、タバサはこくりと頷いて指定された場所まで歩いていった。 さして時間を掛からず轟風が巻き起こったのを見届けると、シエスタから受け取ったゴーグルを身に付ける。 「おっしゃ、行くぞセンセ」 「ああ……よろしく頼む!」 踏み込んでいたブレーキペダルから足を離し、スロットルレバーを開く。 加速するエネルギーを解放されたゼロ戦は勢い良く加速を開始する。 操縦桿を軽く前方に押し、尾輪を地面から離れさせ滑走に入る。 段々と壁が近づいてくる中、十分にスピードが乗ったのを確認すると操縦桿を引き、タバサの起こした風に機体を乗せた。 ゼロ戦が浮き上がり、大きなGがコクピット内の二人に圧し掛かる。 そして脚を収納したゼロ戦は魔法学院の壁を飛び越え、更に上昇を続けていく。 「おおお、飛んでいる! 飛んでいるぞ! こんなに早く!」 風防の外で猛スピードで流れていく景色を見、興奮を隠さず叫んだ。 「おい俺にも見せろよ相棒!」 鞘口をカタカタ鳴らして催促するデルフリンガーをハーミットパープルで引き上げれば、デルフリンガーもまた金具をけたたましく鳴らして騒ぎ出した。 「うわー! すげえ! すげえ! なんだこれ、フネとか竜とか比べ物になんねーぞ!」 「そりゃそうよ、こいつぁ最高速度が500km以上出る。ハルケギニアでそんだけの速度を出せる魔法や生物なんてそうはないじゃろ?」 狭いコクピットの中、自慢げに言うジョセフの言葉も、コルベールとデルフリンガーには届いていなかった。 矢のように過ぎる雲の流れと外の景色に釘付けになっていたからだ。 これから同乗者の気が済むまで遊覧飛行したり、雲を突き抜けた上空まで一気に飛んでやりたくもあったが、如何せん肝心要の燃料がタンクの20%しかない。 安全を考慮し、比較的低空飛行で、且つ学院の周辺を飛び回るだけしか出来なかったが、それでもコルベールやデルフリンガーには十分過ぎる驚きと興奮を与えていた。 それは無論、地上で見守っていたギーシュ達や、突然聞こえてきた爆音に何事かと教室の窓から顔を出した学院の生徒や教師達、地面から見上げる使用人達、そして塔の窓から一部始終を見守っていたウェールズも例外ではない。 「ほらほら見てくださいミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモン! 飛んでます、竜の羽衣が飛んでますよ!」 お伽噺だった『竜の羽衣』が本当に空を飛んでいるのを見ることが出来たシエスタのはしゃぎ様にも、キュルケもギーシュも構うことが出来なかった。 「……まるで夢でも見ているようだ。まさか、あんなカヌーみたいなオモチャが、あんなに早く飛ぶだなんて……」 「……本当に。何から何まで私達の常識ってものが通用しない世界なのね、ダーリンの世界って」 学院にいる大勢の人間の中で、事情が飲み込めている者はほとんどいない。それでも、ハルケギニアの空を翔けるゼロ戦に視線を奪われていた。 それから二十分後、再びアウストリの広場にゼロ戦が着陸し、そこからジョセフとコルベールが降りてきたのが確認された後、物見高い生徒達が教師の制止を振り切って教室の窓からフライで広場に殺到してくる。 ルイズに召喚されてからこの方、学院の注目を一手に集めてきたジョセフである。 怒涛のように押しかけてくる野次馬達を丁重にあしらい、無遠慮にゼロ戦を触ろうとする不貞な連中にはトライアングルの三人と使い魔が睨みを効かせていた。 今日も今日とて注目を一手に集めるジョセフを羨ましげに見ていたギーシュは、自分を慰めるように鼻先を摺り寄せてくるヴェルダンデにしかと抱き付いていた。 「ああヴェルダンデ、僕の愛くるしいヴェルダンデ、傷心の僕を癒してくれるのは君だけだ」 もぐもぐ、と喉を鳴らして目を細めるヴェルダンデは、しょうがないなあと言いたげなつぶらな瞳で主人を見つめていたのだった。 ちょうどその頃、トリステイン王城のルイズは客間のベッドで頭から毛布を被っていた。 眠っている訳ではない。目ならとっくに覚めている。 しかし、ベッドから起き上がる気分にはなれなかったのだ。 使い魔とも別れて一人、今の自分が唯一頼れる友人であるアンリエッタの所へ転がり込んだはいいものの、今になってその行動が間違いだったことに気付いてしまった。 スタンド使いで様々な悪知恵が働くジョセフがいなければ、自分はただのゼロのルイズでしかない。何も出来ない、魔法も使えないゼロのルイズ。 しかも使い魔が帰還するのを素直に喜んでやれる訳でもなく、さよならも言わずに帰れと置手紙を残しただけ。使い魔を手放す辛さに耐えかねたとは言え、そんな無責任な別れは許されるはずが無い。 自分の都合で呼び出した使い魔を帰すのに、呼び出した張本人はこうして迎えの来ないベッドの上で毛布を被って時が過ぎるのをただ待っているだけだなんて、果たして貴族の振る舞いとして恥ずかしくないのか。答えは既に出ている。 サイドテーブルに置いている帽子に視線が行き、そしてまたすぐ離された。 (……私、バカだわ。こんなことしてたってしょうがないじゃない……) 頭では判っている。ジョセフが帰るその時まで側にいて、謝るところは謝って、最後にさようならと直接言って、きちんと別れを告げるべきなのだと。 まだ日蝕まで二日ある。今から馬を飛ばして帰れば、十分に間に合う。学院に帰って、何もなかったような顔しててもジョセフはちょっとだけ苦笑して、あの大きな手で頭を撫でてくれるだろう。 正直になって、別れたくない帰したくないって駄々をこねられるだけこねて、思い切り泣いて叫んで――自分の中に溜まっているわだかまりを全部吐き出してぶつければいい。 本当はそうしなければならないのだ。 そんな事をしても、ジョセフの意思が変わらないのは判り切っている。 ただ、伝えなければならない。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって、ジョセフ・ジョースターがとても大切な存在だって言う事を。 人の言う事を先読みできる有り得ない洞察力と推理力を持つジョセフだって、あんな走り書きの文章一つで自分の中で渦巻いている色んな気持ちを察することなんて出来はしない。 ……いや、ハーミットパープルを使えば出来るかもしれないが、多分そんなことはしない。 だからちゃんと自分の口で、自分の気持ちを伝えなければならないのに。 今から部屋を飛び出して、馬に乗って帰るだけでいいのに。 しかし、ルイズはベッドから起き上がる事が出来なかった。 由緒正しいトリステイン名門のヴァリエール公爵家の三女たる者が、よりにもよって使い魔から逃げ出して毛布を被っているだけだなんて。 どんな顔をして帰ればいいのか、果たしてジョセフが本当に自分の思うような行動を取ってくれるのか。もし取ってくれなかったらどうしよう――。 そんな思いばかりが渦巻いて、立ち上がることが出来なかった。 誰にも頼ることが出来ず、誰にも悩みを打ち明けられず、一人きりになった今、16歳の少女に似つかわしい臆病さが前面に押し出されていた。 頭では取るべき行動が判っていても、心が動き出す決意を立てられない。 結局ルイズは、毛布で全身を包みきゅっと目を閉じて、眠気が来るのをひたすら待ってしまった。 日蝕の前日。 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えたその日の朝。 トリステイン王宮は、式が行われるゲルマニア首府のヴィンドボナへのアンリエッタの出発の準備を控え、上から下まで慌しく駆け巡っていた。 トリスタニアからヴィンドボナまでは、馬車で行けば半日弱しか掛からない。 しかし政略結婚と言えども、一国の皇帝と王女の婚礼の儀は建前上目出度い代物であり、祭儀として華々しく、且つ恭しく執り行われるべき代物である。 トリステイン首都のトリスタニアからヴィンドボナまでの旅路そのものが盛大なセレモニーであり、足早に急ぐような野暮な真似が出来るわけも無い。 半日弱の旅路をたっぷり時間をかけ、式前日の夕方にやっと到着することになっていた。 千の御伴を連れて立ち並ぶ行列の主賓たるアンリエッタ自身は、まるで病に冒されたような白い面持ちのまま、今朝本縫いが終わったばかりのウェディングドレスに身を包んでいた。 上質の絹で織られた美しいドレスを着ているというのに、ドレスの色を黒く染めれば葬儀の場に立っていてもなんら違和感を感じさせない佇まいであった。 出発の時間まで四半刻となった頃、王宮に突然の報がもたらされた。 国賓歓迎の為、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の知らせ。 それと時を同じくし、神聖アルビオン共和国からの宣戦布告文が急使に拠り届けられた。 ラ・ロシェールに配備されていたトリステイン艦隊が突如不可侵条約を無視して親善艦隊に理由なく攻撃を開始し、一隻の戦艦が撃沈された為、アルビオン共和国政府は『自衛の為』『やむなく』トリステイン王国政府に対して宣戦を布告する旨が綴られていた。 トリステイン王宮はこの知らせに騒然となり、急遽将軍や大臣達を招集した。 しかし名誉ある貴族が雁首揃えてやることと言えば、豪奢な大会議室でただ言葉を踊らせるばかり。 やれこれは互いの誤解から発生した不幸な行き違いだ、アルビオン政府に対し真摯な対応をすべきだ。いや今すぐゲルマニアに急使を飛ばし、同盟に従い軍を差し向けるべきだ。 誰も椅子から腰を上げようともせず、下の者を動かそうともせず、ただひたすらに終着点が考えられていない互いの意見ばかりが飛び交い、なんら実のある結果に繋がる気配は見えなかった。 会議室の上座には、ウェディングドレスを纏ったアンリエッタが座っていた。きらめくような白絹に身を包んだ姿は衆目を引き付ける美しさを醸し出しているが、居並ぶ貴族達は誰一人としてその清楚な美しさに目を留めようとしない。まして意見を求めようともしない。 国を揺るがす一大事の中でも、うら若き王女はただ座っているだけ。 ただ顔を俯かせ、膝の上に置いて握り締めた手をじっと見つめているだけだった。 「――これは偶然の事故――」 「――今なら話し合えば誤解が解けるかも――」 「――この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が全面戦争へと発展しないうちに――」 会議室での言葉は何一つアンリエッタに届かず、ただ頭の上を通り抜けていくだけ。 誰も王女に言葉を届けようともしないし、届ける意味を見出してもいなかった。 「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」 伝書フクロウがもたらした書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んできた。 「場所は何処だ!」 「ラ・ロシェールの近郊! タルブの草原のようです!」 伝令の言葉に、会議室はより重い空気を漂わせる。 自分達が考えている以上に、事態は重大であることに気付き始めざるを得なくなっていた。 昼を過ぎ、王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。 それらはどれも例外なく、頭を抱え耳を塞ぎたくなるような悪い知らせばかりであった。 タルブの領主が討ち死にし、偵察の竜騎士隊は一騎たりとも帰還せず、アルビオンからの返答もない。 敵意を持って杖を向けている敵に対し、未だに自分達がどうするのかも決めあぐねて会議室から出ようともしない貴族達。 それをただ黙って見ているアンリエッタの心の中では、これまで懸命に押し殺してきた感情がゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていたのだった。 (……これが。伝統あるトリステイン王室) 前王は子に恵まれなかった。生まれた子供はマリアンヌとの間に生まれた娘、アンリエッタ一人。側室も設けなかった為、トリステインの王位継承権を持つ者は大后マリアンヌと王女アンリエッタの二人だけ。 王が崩御した後、マリアンヌは王位継承権を放棄し、第一王位継承権を持つようになったアンリエッタは当時7歳。まだドットメイジですらない少女を王座に座らせる訳にも行かず、それから十年間トリステインの玉座は主を失ったまま現在に至っている。 しかし17歳となり、水のトライアングルメイジとなった彼女は、ハルケギニア統一の野望を持つアルビオンに対抗する同盟を結ぶ為の貢物として、四十過ぎの男との政略結婚を組まれていた。そこに彼女の意思は介在していない。アンリエッタの恋心を斟酌されるはずもない。 トリステイン王宮に仕えている貴族達は、王家に傅く素振りをしているだけ。国家存亡の危機に瀕している今、王女に意見を求めることも無く、ただ自分達だけで言葉を踊らせている。 自分に求められている役割は国を統治する王女ではなく、王宮を飾る美しい花。 花瓶に生けられた花に、王の言葉を求める者は居ない。 (そうね。私はずっと彼らから取り上げられてきたのだわ。トリステインという国を。王女としての誇りを) 今にも滅亡しようとするアルビオンで孤軍奮闘するウェールズから、昔送った恋文を返して貰う。そんな困難な任務を頼める相手が、幼い頃の遊び相手しかいなかった。 数少ない友人であるルイズにすら、最初は悲劇の主人公ぶった言葉でしか頼むことが出来なかった。王女としての立ち居振る舞いすら忘れていたのだ。 それを思い出させてくれたのは、皮肉にも平民であり、使い魔である老人、ジョセフ・ジョースターの言葉。 『王族の誇りを捨て、自らに仕える貴族にへつらった! そんな腐れた魂の何が王女か、何がルイズの友達かッ!』 あの夜、自分は王族としての誇りを取り戻したはずではなかったのか。 愛するウェールズは最後の時までアルビオン王家に連なる者として、誇り高く死のうとした。それを無理矢理トリステインに連れて帰らせたのは自分だ。 アンリエッタ・ド・トリステインは、こんな無様な姿を見せる為に愛する人の意思を捻じ曲げたのか? 今の自分は胸を張って、自分の愛する人達の前に顔を出せるだろうか? (……出せないわ。出せるはずが無い) 今の自分は、王女である資格がない。恋人である資格がない。友人である資格がない。 (――どうせ、このまま生き長らえても意にそぐわぬ婚姻をするだけ) 弾む鼓動を抑えるように、ゆっくりと、けれど大きく、息を吸う。 (これから数十年ずっと悔いて生きるのと、今日、死ぬことと。どれだけの違いがあるのかしら) 肺腑に行き渡らせた息を、静かに吐き出していく。 (せめて、トリステインの王女として誇れるように生きてみよう) 俯いていた顔をゆっくりと上げる。意味のない言葉が舞う貴族達を一瞥し、悠然と立ち上がる王女に、貴族達の目が向けられた。 「――トリステインの貴族は誰も彼も臆病者のようですわね」 アンリエッタの唇が紡いだ言葉は、意図せず氷柱のような冷たさと鋭さを纏っていた。 「姫殿下?」 「今正に国土を侵されていると言うのに、下らぬ言葉遊びに興じる様の見物はもう飽きました。それで? 貴方がたは一体どうするというのですか。そのお腰の杖は飾りなのですか? 貴方がたが今唱えなければならないのはつまらぬ御託ではなく、敵を討つ為の呪文のはずです」 呼吸も乱れず言葉に震えもない。言うべき言葉が勝手に流れているような錯覚さえ、アンリエッタは抱いていた。 「しかし、姫殿下……誤解から発生した小競り合いですぞ」 「誤解? 何をどうもって誤解と言うのですか? トリステイン王国の艦隊は祝砲に実弾を込める愚か者が揃っております、とお認めになるつもり? そんな馬鹿な話があってたまりますか。どれだけ下らない道化芝居とて、こんな無様な筋書きは存在しません」 「いや、我々は不可侵条約を結んでおったのです。事故以外に有り得ません」 「事故以外の可能性を貴方が認めたくないだけでしょう。今我々が直面している現実は、アルビオンがトリステインの国土を侵している。条約は紙より容易く破られたのです。どうせ守るつもりなどなかったのでしょう、あの卑怯者達の集まりは」 「しかし……」 なおも言い募ろうとする一人の将軍に一瞥をくれる。 ただのお飾りであるはずの王女は、臣下の勝手な発言を視線一つで遮った。 「貴方がたは御存知? アルビオンを簒奪したレコン・キスタは我がトリステイン王国のグリフォン隊隊長を裏切らせ、名誉ある戦いに赴こうとしたウェールズ皇太子を暗殺しようとしたのです」 突如発せられた言葉に、会議室がどよめく。 王宮近衛である魔法衛士隊隊長の裏切りは、緘口令が引かれていた。この緊急時に会議室に召集された貴族の中でも、その事実を知らない者は少なくなかった。 「アルビオン王家は滅亡寸前であったのに、彼らは最期の名誉ある死すら皇太子から奪おうとしたのです。いみじくもトリステインがレコン・キスタに加担したも等しい忌まわしい出来事を知ってなお、まだ愚にも付かぬ議論を続けるつもりですか」 静かに紡がれる王女の言葉に、貴族達は口を噤む。つい先程まで貴族達の声が溢れていた会議室には、王女の声だけが響いていた。 「この様な繰言を並べている間も、国が踏み荒らされ、民の血が流れているのです。王族や貴族は、この様な時こそ杖を掲げ戦いに出向く存在だったのではありませぬか? そんな最低限の義務すら果たせないのなら、杖など折ってしまいなさい!」 声を張り上げてテーブルを叩くアンリエッタ。 誰も言葉を発さず、杖に手を掛ける者もいない。 「黙って聞いていれば、如何に逃げ口上を美しく整えるかという事ばかり。確かにトリステインは小国、頭上から見下ろすアルビオンに反撃したところで討ち死には必至。敗戦後、責任を取らされるのは真っ平御免と言う所でしょうか。 それならば侵略者に尻尾を振って腹でも見せていれば命が永らえる。そうそう、私の聞き及んだ話ですと王党派は降伏してもギロチンなる処刑道具で首を刎ねられたそうですわ」 「姫殿下、言葉が過ぎますぞ」 マザリーニがたしなめる。しかしアンリエッタは一瞬だけ視線を彼に向けただけだった。 「わたくしは誇り高きトリステイン王国が王女、アンリエッタです。わたくしは王族としての義務を果たしに行きます。卑怯者どもの犬として首を刎ねられたいのならば、自由になさい」 アンリエッタは貴族達にそれ以上構うこともなく、ドレスの裾を捲り上げて会議室を飛び出していく。 「お待ち下さい! お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」 マザリーニのみならず何人もの貴族がそれを押し留めようとするが、彼女は躊躇いなく彼らを一喝した。 「軽々しく王女に触れようとするとは何事ですか、立場を弁えなさい!」 アンリエッタに伸ばされようとしていた手が、威厳ある言葉によって動きを失った。そして行き場を無くした手達が彷徨う中、捲り上げた裾を強引に引き千切ると、破き取った裾をマザリーニの顔目掛けて投げ付けた。 「もううんざりだわ、私の意思は私のもの! 貴方がたに左右される云われはないわ!」 見るも無残に敗れた裾を翻し、足音も高く廊下を進んでいく。 会議室を守っていた魔法衛士達は、王女殿下の後ろを自然と付き従っていった。 宮廷の中庭に現れたアンリエッタは、涼やかな声で高らかに叫んだ。 「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」 中庭にいた衛士達がアンリエッタの元に集まり、ユニコーンの繋がれた馬車が衛士の手によって引かれて来る。 アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外し、傲慢なほど堂々と背に跨った。 「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊をここへ!」 前王が崩御してから十年余の時間を経、トリステイン王宮に王の声が響き渡る。 魔法衛士隊の面々は一斉に王女に敬礼し、アンリエッタはユニコーンの腹を蹴りつける。 甲高いいななきを上げて前足を高く掲げる中でも、彼女は悠然とした態度を崩さなかった。 アンリエッタの頭に載ったティアラが日の光を受け、黄金色に輝いたのを臣下に見せた後、ユニコーンは誇らしげに走り出す。 それに続き、幻獣に搭乗した衛士達がそれぞれ叫びを上げて続く。 「戦だ! 姫殿下に続け!」 「続け! 後れを取っては家名の恥だ!」 雪崩を打つように貴族達は各々の乗機に跨り、アンリエッタの後を追いかけていく。 王女出陣の知らせは城下に構える連隊へ届き、後れを取ってはならぬと次々とタルブへ向かって進んでいく。 投げ付けられた裾を手にしたまま、その様子を見ていたマザリーニは呆然と天を見上げた。 アンリエッタが貴族達に放った言葉は、自分も考えていたことだった。 伝え聞く情報は、レコン・キスタとは誇りや名誉という単語から程遠い場所に存在する連中だという事は知っていた。 だが現実問題として、今のトリステインでは彼らに太刀打ちできないことを一番知っているのは、国の政務を一手に引き受けてきたマザリーニである。 今ここで戦いに出たところで、無駄に被害を広げる結果にしかならないと考えている。今更命が惜しい訳ではない。現実的に考えれば考えるほど、国の為、民の為には事を荒立ててはいけなかった。小を切り捨て、大を生かす為にはそうせざるを得なかった。 だが、今この時、条約は破られ、戦争が始まっているのだ。外交のプロセスは既に終わっている。今は互いの国力をぶつけ合う実力行使の時間になっている。それを認めたくない、という気持ちがなかったとは言えなかった。 一人の高級貴族が、アルビオンに派遣する特使の件で耳打ちをする。 マザリーニは頭に被っていた球帽をそいつの顔面に思い切り投げ付けようとして、気が変わる。球帽を掴んだ拳ごと彼の鼻っ面に叩き込んだ。 そしてアンリエッタが投げ付けた裾を頭に巻き付け、叫んだ。 「各々方! 馬へ! 遅れてはならぬ、栄えある姫殿下の元に集え!」 To Be Contined → 戻る
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名前: スタンド:Ab Deluxe よく使われるタグ:アヴ・デラックス 声の特徴:ブ男という名のイケメン 作品の特徴・傾向 読んで字のごとく、アヴさん多め 人物・その他の特徴 動画 公開マイリスト ジョジョソン『群生サボテンかわせない』作って歌ってみた 『冷酷な発想のアヴドゥル ジョジョ3部』を歌わせて頂いた 歌詞 些細な事で俺はキレている 『ジョルノ』 Help me AVDULLLLLL!! モリオウ☆センセイション Assassins マジシャンズ★レッド 【ウルムド】「アブドゥル×アヴドゥル」【モハメド】 七色の人間賛歌 モリオウをたどる 関連動画(合わせてみた等) ジョジョ4部合唱【ダイヤモンドは砕けない】完成版 (合唱) 「石作りの海組曲」15人で歌ってみた (合唱) ジョジョの奇妙な流星群 無理やり合わせてみた 【修正版】「ジョジョの奇妙な流星群」 無理やり合わせてみた 【ネズミー音楽で】ジョジョカップルメドレー【作って皆で歌ってみた】
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「君はコルベールセンセだね! こんなトコで奇遇ですなあ!」 馬に乗っていたコルベールが頭の上から名を呼ばれたのは、その日の昼前のことだった。 ラ・ロシェールを抜け、タルブ村へと続く街道を進んでいたコルベールの前に風竜が降り立ち、その背から見慣れた生徒達が降りてきた。 「そういう君はミスタ・ジョースター! それに……ミス・ヴァリエールにミス・ツェルプストーにミスタ・グラモン! どうしたんだね、こんなところで」 研究旅行という体で一週間ほど前からいなくなっていたことは知っていたが、パッと見でも明らかに研究旅行などと言う大層な旅をしているのではないのはすぐ判った。 メイド連れの上、学院の生徒ではないらしき青年も一人混ざっている。 「そろそろ学院に帰ろうってコトになったんじゃが、近くを通りかかったんでタルブのワインを買い付けようって話になってな。コルベールセンセもワインが目当てで?」 自分から研究旅行なんてうそっぱちですよと豪快にバラすジョセフの言に、ちょっとした苦笑を浮かべながらコルベールは首を横に振った。 「いや、私はちょっと興味深い話を見つけたのでね。『竜の羽衣』というマジックアイテムがタルブという村にあるらしいんだが、それがどんなものかこの目で確かめに来たんだ」 竜の羽衣、という単語を聞いたシエスタが、驚いて声を上げた。 「『竜の羽衣』ですか!?」 「あらシエスタ、あなた何か知ってるの?」 好奇心旺盛なキュルケが、興味津々でシエスタに振り向いた。 「……ええ、『竜の羽衣』は確かに私の村にありますけれど……マジックアイテムじゃないという話なんです。確かに空を飛んでタルブに来たのを村の人達が見てたらしいんですけれど… …それ以来、一度も空を飛んだことがないんです」 視線を彷徨わせながら選び選び言葉を続けるたどたどしさに、沸点がイマイチ低いルイズが眉間に皺を寄せ始めた。 「何よ、随分詳しいじゃない。で、その『竜の羽衣』って一体なんなのよ?」 「ええと、その……私達にもよく判らないんです。私のおじいちゃんがこれに乗っていたんですけれど……こうやって話すより、実際に見て頂いた方が……」 突然の告白に、その場にいた全員の視線が一瞬完全に沈黙する。その沈黙も数秒後、一斉に破られると同時に貴族達の視線がシエスタへ向けられた。 「ちょっと! それをどうしてもっと早く言わなかったの! 今までの苦労は一体何!」 「す、すいませんミス・ヴァリエール!」 「そうよ、そういう代物なら私のツテを使えばどうとでも好事家に高値で売り捌けるのに!」 「君は酷い女だな、ミス・ツェルプストー……」 「まあまあ、これからの話は実際に『竜の羽衣』を見てからでも遅くはないだろう?」 ルイズがブチ切れ、シエスタが謝り、キュルケが早速売り飛ばす算段を始め、ギーシュがあきれ、ウェールズが宥め、タバサは読書を続ける。 「若いっていいよなァー」 「たまには抑えてもらえると有難いんだが」 盛り上がりを見せる若者達の輪を、ジジイとハゲは温かい目で眺めていた。 さてタルブという村は、ハルケギニアに数多く点在するのどかな農村だ。名物はワイン、それもトリステインだけではなく近隣の国でも結構高値がつく上質なワインである。 その為、行商人だけではなく時折貴族が直々にワインを買い付けに来ることも珍しい事ではなかった。 だが、そんなタルブ村でも同じ日に六人の貴族の来訪を受けるのは非常な珍事だった。 しかも彼らがワインに目もくれず、村の近くの草原に建てられた寺院に安置されている『竜の羽衣』を見に行くというのは、かなり有り得ない出来事だった。 「――こいつは……」 寺院を目の当たりにしたジョセフは、身動きもせずにじっと寺院を見つめていた。 「どうしたのよジョセフ」 使い魔が普段見せない不審な様子を目敏く見つけたルイズが、不審げな視線でジョセフを見上げる。 「まあ……見たことのない建物ね。ゲルマニアにもない感じだわ」 キュルケもジョセフの横に立って寺院を一瞥したが、十七年の生涯の中でも目にしたことのない、不可思議な雰囲気の建物だった。 丸木で組み上げられた朱色の門、板と漆喰の壁を木の柱に組み合わせ、屋根は黒い陶器の様な板を何十枚も並べていた。入り口に掛けられた縄から白い紙で作られた飾りが垂れ下がり、中は木の板を敷き詰めた床だった。 「こいつぁ……神社じゃあないか。どうしてこんなところに……」 「ジンジャ?」 思わずジョセフが漏らした単語は、この場にいる誰も聞いた事のない言葉だった。ルイズが訝しげに問いかけるのにもジョセフが振り向かないので、とりあえずチョップを入れた。 「おぅっ、何すんじゃよルイズ!」 「ご主人様を無視するなんていい度胸ね! どうしたのよ一体、こんな妙ちくりんな建物がどうかしたの?」 「ああ……」 不機嫌さを隠さない主人の耳元に自分の唇を持っていくと、そっと耳打ちした。 「……わしの世界にある国の建物に、凄く似てるんじゃよ」 その言葉に目を見開くと、互いの帽子で自分達の顔を隠すように頭を寄せ、声を潜めた。 「……あんたの世界の?」 「ああ……似てるなんてモンじゃない。そのまんまだ」 内緒話を続ける二人を尻目に、キュルケ達は寺院の中へ入っていった。 「じゃあもしかして、『竜の羽衣』って……」 「わしの世界から来た何か、という可能性は非常に強い。それも多分……」 「おーい、二人ともまだ来ないのかい?」 まだ建物に入ろうともしない二人を、ギーシュが呼んだ。 「……とりあえず、見てみるわ。話はそこからよ」 「そうだな」 どちらからともなく頷き合うと、寺院へと足を踏み入れた。 先に入った五人のメイジ達の背の向こうに見えた『竜の羽衣』に、訝しげな顔を隠さないルイズの横で、ジョセフは驚きに目を見開いた。 気のない様子で眺めているキュルケとギーシュ、身を乗り出しがちに見ているのはタバサ、ウェールズ。そしてガブリ寄りで『竜の羽衣』に食いついているのはコルベールだった。道案内をしてきたシエスタは、貴族達から一歩引いたところでそっと控えている。 キュルケとギーシュは一目見ただけで『竜の羽衣』をインチキな代物と判断していた。 「……興味深い」 「ああ……この目で見るまでは信じていなかったが。これは空を飛べる代物と考えていいようだ。だがその為に成立させなければならない条件がかなり大掛かりになるようだが……?」 風のトライアングルメイジであるタバサとウェールズは、『竜の羽衣』が空を飛ぶ為にどういう条件が組み合わせられればよいか、という思考を巡らせていた。 その結果、二人は『これは空を飛べる』という答えには辿り着いた。だがその為に必要とする膨大な風をどう用意するか、という点に辿り着くことは出来ない。 二人が想定するだけの風を発生させるには風のスクウェアメイジが最低二人は必要だが、それなら自分の力で飛べばいいだけだ、という結論に達していた。 コルベールは持ち前の知的好奇心を著しく刺激され、思わず早足になって『竜の羽衣』の周囲を動き回っていた。これを形作るフォルムはハルケギニアの常識からは完全にかけ離れた代物だというのに、そのどれもが研究者としての本能を甚くときめかせた。 風を大きく受けられる頑丈な翼、前方に取り付けられた巨大な風車、奇妙な材質で作られた精巧な円の車輪。『竜の羽衣』を形成するパーツの一つ一つが高度な技術で作られていることに、息を呑む思いで見つめていた。 そんなメイジ達を視界に入れることすら忘れたジョセフは、思わず声を張り上げた。 「ゼロ戦か!?」 濃緑の塗装を施されたその機体は、まるでこの前建造されたばかりのような姿を保っていた。『固定化』の魔法の効果が申し分なく働いていたためである。 思わず駆け出したジョセフはメイジ達を押し退ける勢いで『竜の羽衣』……ゼロ戦に触れた。ゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴのルーンが手袋の中で光り、目前にある機体の情報が、ジョセフの頭脳へ一気に押し寄せてきた。 「……は、ははははは……」 見えた答えに、ジョセフは込み上げてくる笑いを抑えようとはしない。 ジョセフ以外の面々は、突然の奇行に戸惑うしか出来なかった。 「ど……どうしたんだねジョジョ。こんな、カヌーに翼をつけただけのインチキな玩具がどうしたというんだ?」 ゼロ戦とジョセフに忙しなく視線を往復させながら、ギーシュが恐る恐るジョセフに問いかける。 「そうよダーリン、こんなものじゃ空を飛べないわ。翼だって羽ばたくようには出来ていないし……こんな小型のドラゴンほどもあるモノが空に浮かぶなんて有り得ないじゃない」 キュルケも戸惑いつつギーシュの言葉を続ける。彼女もまた、これが空を飛ぶだなんて頭から信じていなかった。 「ちょっとジョセフ、これがどうしたのよ!? 笑ってないで説明しなさいよ!」 ルイズもまたそれは同じようで、笑い続けるばかりのジョセフのシャツの裾を掴んでぐいぐいと揺らして問い詰める。 「はははははっ……まさかとは思ったが、こんな所でこんな代物に出くわすとはなッ……。長生きはしてみるモンじゃあないかッ……」 若い頃の夢はパイロットだったジョセフにとって、第二次世界大戦の名機の一つであるゼロ戦を知らないという事は有り得ない。 しかもそれが博物館に展示されているレプリカではなく、現役の姿そのままの完動品として目の前に現れた。飛行機マニア垂涎の代物を目前にし、ジョセフが歓喜してしまうのはむしろ自然なことであった。 普段の飄々とした彼とは大きくかけ離れた振る舞いに戸惑うメイジ達にも構わず、ジョセフは喜びを隠そうともせず大きく腕を広げて一同に振り返った。 「こいつは飛行機だ! しかもこいつ、動く! 動くぞッ! コイツに燃料さえ入れてやればナンボでも飛ぶんじゃぞッ!」 突然そんな事を言われても、ジョセフ以外にはその言葉の真偽を判断する術がない。だがコルベールはいち早く、メイジとしての理性ではなく、研究者としての感情に判断を委ねた。 「これが飛ぶのか! 本当に飛ぶんだね、ミスタ・ジョースター!」 「ああ! コイツの中にあるエンジンがプロペラを回す! プロペラが回ったらすげェ風が吹くから、その風を受けて飛んでくれるッ!」 「なんと! こんな巨大なモノを飛ばせるだけのエンジンだというのかね!? では燃料を早く用意しなければなるまい、一体どんな燃料が必要なんだね、万難辛苦排してでもこの炎蛇のコルベールが用意させてもらおう!」 「その燃料なんじゃが、もしかしたらセンセでも知らんようなモノかもしれん。ちょっと待ってくれよ……」 コックを開けたタンクの底には、ガソリンがほんの少し残っていた。固定化の魔法はタンクに少しだけ残っていたガソリンにも影響を及ぼしており、四十年以上の時間を経ても化学変化していなかったのである。 コルベールはタンクの底を指でなぞり、指先に付いたガソリンを嗅いだ。 「ふむ、嗅いだ事のない臭いだな。熱を加えなくてもこれほど臭いを感じるとは、随分と気化し易い性質のようだ。これを爆発燃焼させて動くとすれば……私の作ったエンジンなど比べ物にならない大きな力が出るか。なるほど、それなら『竜の羽衣』が飛んでも不思議ではない」 「コイツは石油を精製して作るんだが、ハルケギニアって石油ってあるんか?」 「石油?」 「ええとだな、地下から湧いてきて燃える黒い水、って代物に覚えは?」 若者をほったらかしてジジイとハゲだけが盛り上がる最中聞こえた言葉に、タバサがぼそりと呟いた。 「それなら聞いた事がある。ゲルマニアの北部で『燃える水』をランプの灯りとして使っていると聞いた」 両手を固く握り締めて、両腕を肘ごと後ろへ勢い良く振ってガッツポーズをするジョセフ。 「よしッ! ソイツを精製したらガソリンが出来る!」 「本当かね! ならばそのガソリンを用意すればこれが飛んでいる所を見れるというわけか……! いいだろう、それでどのくらいのガソリンが必要なのかね!?」 「コイツのタンクの容量から言うと……ええと、ワイン樽で五本はいるな」 「なんと! そんなに必要なのか! だが取り掛かってみる価値はある、実に面白い!」 そこからのジョセフとコルベールの行動は迅速だった。 まず『竜の羽衣』を譲り受ける為、シエスタの生家に向かう。 今は飛ばないとは言え、タルブ村の観光資源であり、飛んでいる所を目の当たりにした村の老人やらが手を合わせたりしているということだった。 が、シエスタがジョセフを「学院で世話になっていてよくしてくれている人」と紹介したところ、現在の持ち主であるシエスタの父親は二つ返事で了承したのだった。 続けて2トン弱ある機体を運搬する為に、竜騎士隊とドラゴンをギーシュの父のコネを使って用意した。運搬料として発生したかなりの金額は、コルベールが全額受け持ってくれた。 さて蚊帳の外にほったらかされた若者達はジジイとハゲが駆けずり回っている間、二人をほっといてワインの買い付けに向かっていた。 ひとまず竜の羽衣を譲り受ける算段がついたジョセフは、シエスタの案内で祖父の墓に参ることにした。自分と同じ地球からやってきた先輩に手を合わせよう、という殊勝な気持ちになるのは、ジョセフと言えどもおかしいことではない。 祖父の墓はジョセフの予想通り、日本由来の縦長の墓石であり、そこに刻まれていた墓碑銘は読めなかったものの、漢字とカタカナ混じりの字は日本語であることは明らかだった。 「おじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石なんです。異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくて……何と書いてあるんでしょうね」 「ふーむ。日本語は話せるが読めんのじゃよなぁ……。ニ、とルだけは読めるな……」 マンガ収集が趣味のジョセフだが、良質なマンガが多く出ている日本のマンガは英訳されるのを待っている。最新のマンガをいち早く読めるメリットと、「悪魔の言語」と称されるほど難解な言語を覚えるデメリットを比べたら、デメリットの方が圧倒的に大きかったのだ。 「ニホン語、ですか?」 「ああ、わしの娘が嫁いだ国で使われてる言葉だ。お前のお爺さんはそっちから飛んできて、こっちに来たと言うワケだな。その黒い髪と目は、お爺さん似なんじゃろ?」 「あ、はい。ご覧になってもらった通り、家族みんな目も髪も黒くて。遠くから見たらすぐに家族の誰かだって判るんですよ」 うふふ、とたおやかに微笑むシエスタが、遺品を包んだ布を解く。そこから現れたのは古ぼけたゴーグルだった。これもまた固定化の魔法を受けていて、少し使い古してはいるが十分に実用に耐えうる状態を保っていた。 「おじいちゃんの形見はこれだけなんです。十年前に亡くなったんですけど、日記も何も残さなかったみたいで……遺言とこのゴーグルだけ残したんです」 「遺言?」 「はい、あの墓石の銘を読める人が来たらその人に『竜の羽衣』を渡してくれって。銘は読めなくても、またあの『竜の羽衣』が飛べるかもしれないなら、お渡ししてもいいって父も言ってましたし」 「ふーん……あと十年ほど頑張って欲しかったがなァ。そしたら、せめて世間話も出来たかもしれんが……けどワシ、イギリス系アメリカ人じゃしなー。鬼畜米英とか言われてケンカになっとったかもしらんな」 またよく判らない単語が聞こえるのに、曖昧な笑みを浮かべるシエスタを見たジョセフは、(やっぱり日本人ってどこでもこういう感じになるんかなー)と内心感心していた。 「それで……お渡し出来る人には、こう告げてくれと言ったんです。なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、って。どこの国の陛下なのか判らなかったんですけど……ジョセフさんの娘さんのいる国の陛下なんですね」 「ああ、今もその国の陛下は生きとるしな。じゃが早いトコ行かんと、ちょっと危ないかもしらんなァー」 ジョースター一行がDIO討伐の為日本を離れたのは、1988年の末の事だった。時折見るTVニュースに天皇陛下の病状が出ていたが、果たして年も明けて数ヶ月経った今、まだ今の天皇は生きているのか、それとも皇太子が皇位を継いでいるのか。 「とりあえず、地球とハルケギニアの時間の流れ方はそんなにズレちゃおらんと考えていいようだな……シエスタ、このゴーグルも貰っていいか」 「あ、はい!」 受け取ったゴーグルを試しに着けてみる。 全体的に小柄な日本人サイズのゴーグルは、欧米人でも大柄な部類に入るジョセフの頭には少々小さかったものの、何とか問題なく装着することが出来た。 「似合うか?」 「はい、よく似合ってますよ」 「よし、それなら問題ナシッ」 それからジョセフはシエスタに案内され、村の周辺を歩き回った。 ブドウ畑やワイナリーを見て回った後、シエスタが「私の一番のお気に入りなんです」と、嬉しそうな足取りでジョセフを連れて行ったのは、村の側にある草原だった。 なだらかで平坦で、とても広大な草原だった。確かに飛行機を着陸させるには申し分のない場所だ。青々とした草の上をそよ風が渡れば、心地よい葉ずれの音を響かせて草が波打つ様は壮観と言っていい。シエスタの一番のお気に入りというのも、頷ける光景だった。 「のどかでいいトコじゃなー……」 「はい、私の自慢の故郷です。ブドウもワインもこの草原も……」 それからしばし、二人は無言で草原を見つめていた。 (……スージーQにホリィに承太郎、ポルナレフ……みんな、元気だろうか) 普段は望郷の念は億尾にも出さないジョセフだが、それでもこうして地球に残してきた家族のことを忘れることはない。 今すぐ帰れなくとも、せめて自分は元気にやっていると一言伝えられればもう少し安心は出来るのだろうが、それすら難しいのだろう。 シエスタの祖父は太平洋戦争の最中、何らかの原因でハルケギニアに来てしまい――それから三十年、この地で生きて、没した。 では自分は、あと何年ハルケギニアで生きていられるのだろうか。今年で69歳の自分は、果たしてあと何年、まともに動くことが出来るのだろう。 基本楽観主義なジョセフではあるが、現実を見ないこととはイコールではない。老いると言う事がどう言う事か、自分の身や周囲の人間を見ているから十分に理解している。出会った時はチビのスリだったスモーキーも、今では立派にジョージア市長やってるジジイだ。 「なあシエスタ。もし、わしが今よりもっとジイサンになって、使い魔がロクに出来んようになったら……この村に住むのも悪くないかもなあ」 普段のジョセフには似合わない類の言葉を聞いてしまったシエスタは、思わず目を丸くしたのだが。 「三十年後に備えて、どっか良さそうなトコに家を用意しとくのもいいかもしれんな」 ニヤリと笑って言った言葉に、シエスタはさっき丸くした目を、困ったように細めた。 「あと三十年現役でいるおつもりなら、もうしばらくは大丈夫ですよ」 * その日の夕方。 一行はシエスタの実家に泊まることになった。 上物のワインを樽単位で買っていく貴族達が泊まるというので、村長やワイナリーの主人までもが挨拶に来たりする騒ぎであった。 シエスタを頭に八人の兄弟姉妹と両親が住む家はそれなりに広く、板敷きの床の上に布団を敷けばひとまずベッドに貴族全員を寝かせることは可能である。 固さはどうあれベッドで休めるのは有難い。それぞれ宛がわれた部屋で腰を落ち着けていると、夕食の準備が整うにはまだ少し早い頃合、ルイズとジョセフがいる部屋のドアがノックされた。 ルイズはベッドに寝転んだまま、横に寝転がっているジョセフの背を指でつついて、無言で(誰か来たわよ)と横着を決め込む。 「どちらさんかな?」 ジョセフも主人に倣って横着して、ベッドから起き上がらずに首だけドアに向ける。 「すまないが、二人とも話したいことがあるんだ。少し来てもらいたいんだが」 ドアの向こうからコルベールの声が聞こえてきた。 『竜の羽衣』を前にしていた時のはしゃぎっぷりとは異なる静かな口調の言葉に、ジョセフとルイズは枕元に置いていた帽子を被りつつ、ベッドから起き上がる。 「判りました、ミスタ・コルベール」 ベッドから降りたルイズとジョセフは扉を開け、コルベールに導かれるまま家を後にする。 三人は特に口を開かないまま、村の道を歩いていく。普段と違うコルベールの様子からして、あまり人気のある場所でしたくない類の話があるということは察していた。 やがてコルベールの足が止まったのは、昼間にジョセフがシエスタと来た草原に着いた頃だった。西の稜線に差し掛かった夕日に照らし出された草原は、濃い蜜柑色で彩られて昼間とは異なる雰囲気を醸し出す。 この美しさに感嘆の声を上げたのはルイズだけで、ルイズを挟む形で立つコルベールとジョセフは草原を見つめたまま無言を貫いていた。 「……で、センセ。話ってのはなんですかな?」 夕日の色が僅かに変わった頃、ジョセフがコルベールを見やる。 言葉を促されても、まだコルベールは躊躇うように視線を草原に向けていたが、やがて意を決すると二人に向き直った。 「――何故私が『竜の羽衣』の伝説に行き当たったか。まずそこから話させてもらいたいが……いいかね?」 「晩飯に間に合わせてくれれば文句はありませんわい」 「……そうか。では出来る限り、努力するとしよう」 一つ息を吐くと、コルベールはゆっくりと話し始めた。 「私は、ミスタ・ジョースターの言う異世界に関係のありそうな書物を探した。その中にあったのが、『竜の羽衣』の伝説だ。その真偽を確かめようと、このタルブ村にやってきて今に至る……ここまではいいね?」 訝しげな視線で自分を見ている二人が特に言葉を挟まないのを確認すると、コルベールは言葉を続ける。 「『竜の羽衣』はタルブ村に降り立ったのとは別にもう一つあった。そしてそのもう一つは空を飛んだまま、日蝕の作り出した輪の中に飛び去ったと記されていた」 「なんじゃと!? もしかして、そのもう一つの『竜の羽衣』は……」 「ああ。異世界から何らかの要因によってこちらに二つの『竜の羽衣』がやってきたが、片方は通ってきた道を戻って帰る事が出来たのだろう。だがもう一つ、こちらに降りてしまったのがタルブ村の『竜の羽衣』という事だな。 私も直接この目で見て、ミスタ・ジョースターの話を聞くまでは信じ切れていなかったが、どうやらそう考えることに疑いはないと見ていい」 まだ話の全容が理解できていなかったルイズだが、ここまで来ればコルベールが何を言いたいのかを察することは出来る。鳶色の両眼を大きく開けて、教師を見上げた。 「――もしかして、ミスタ・コルベール! 『竜の羽衣』があれば……ジョセフは、元の世界に帰る事が出来るんですか!?」 驚きの声を上げるルイズの視線から逃げるように、コルベールは顔を背けた。 「……ああ。私の仮説が正しければ……きっと日蝕が異世界とこちらの世界を繋ぐ扉の役割を果たしているのだろう。『竜の羽衣』がもう一度空を飛べれば、あるいは……」 唐突にコルベールが言葉を途切れさせた。 これから先、言わなければならない言葉を発するのは躊躇われた。 だが言わなければならない。 二人に言わず、何も知らない振りをしてやり過ごせばいいのかもしれない。そうするのが一番ベストだとは判っている。だが、それでも。 見つけてしまった真実を告げなければ、この二人に与えられた選択肢を一人で握り潰すことになってしまう。 知らず乾いていた喉を濡らすべく唾を飲み込むと、改めて二人を見つめた。 「……だが、幾つか重大な問題がある。ミス・ヴァリエール――使い魔の原則は知っているだろう?」 不意に告げられた言葉の意味を理解してしまったルイズは、言うべき言葉を見失った。 呆然と立つルイズに悲しげな目を向けながらも、教師は意を決して真実を続けた。 「一人のメイジが召喚できる使い魔は一体だけ。その契約が破棄されるのは、メイジか使い魔のどちらかが死に至った時のみ。これに一切の例外はない」 「ちょ、ちょっと待ってくれッ! それじゃあッ……」 ジョセフも、コルベールが何を言わんとしているか理解できた。 コルベールは何かを言おうとしたジョセフへ手を翳して制止すると、静かに言葉を紡ぐ。 「もしミスタ・ジョースターが元の世界に帰れば、ミス・ヴァリエールはミスタ・ジョースターが死ぬまで新たな使い魔を召喚することが出来ない。いや、もしかしたら召喚のゲートが開くかもしれない。 しかしその場合でも、ゲートが開かれるのはミスタ・ジョースターの前だろう。 そして、私が君達に言わなければならない事がもう一つ、ある」 突如残酷な選択肢を突き付けられた二人にとどめを差すような心持ちで、コルベールは静かに言葉を発した。 「私が先程計算したところ……次の日蝕は五日後の正午。その次の日蝕は……十年後、なんだ」 To Be Contined → 戻る
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(ふぅ~~~~ッ、危ないところじゃったわいッ。 ちと刺激的なギャグじゃったとは言え本気で殺されるかもしれんかったのォ) 救急車の中、空の向こうから魂を引き戻されたばかりのジョセフは包帯を巻かれた胸を撫で下ろしていた。 既に死亡していた自分にDIOの死体から輸血して蘇生させるという、ある意味今までの冒険と戦いを台無しにしかけないくらいの大博打ッ。 しかしさしものDIOとは言え、血だけではジョースターの血統を乗っ取ることは出来なかったようだ。 ジョセフは自分の横のベッドに視線を落とす。スタープラチナと承太郎に吹き飛ばされて完全敗北した、かつてDIOだった男の死骸は今も救急車の中で自分達と共に運ばれている。 この死骸を太陽光に晒し、復活の芽を完全に摘み取った時こそ、五十日にわたる冒険が真に終わるのだから。 (じゃが念には念を入れておかなければなるまい……) ジョセフは知らず知らずのうちに、自らの右手を強く握り締めていた。 自分の祖父ジョナサンは、吸血鬼となったDIOと戦いその身を打ち滅ぼした……と思った。しかしッ! DIOは首だけとなっても生きていたばかりか、なおもジョナサンへ襲い掛かり、ジョナサンの肉体を奪い取って復活したッッッ! DIOの血は果たしてどのような効果を及ぼすのか。これで吸血鬼化するとかDIOに乗っ取られるとかしようものなら、本当に今までの冒険が台無しとなる。 しかしジョセフには吸血鬼に対する必殺の切り札、波紋がある。 (じゃがなァ~~~~吸血鬼の血が身体に流れてる人間が波紋使ったら一体どうなるんじゃ? 呼吸が出来なくなって死んだりしたらヤじゃのう) ちょっと波紋を練ってみる。 「おおっ……ふ」 少し痛みが走るが、大体大丈夫。死ぬ危険はない。 だが波紋の効果が自分に及んでいるという事は、少なからずDIOの残滓が自分の中に眠っているということでもある。しばらく血を浄化するためにも、痛みがなくなるまでは波紋呼吸を続けなければなるまい。 「じじい……何してやがる」 承太郎が訝しげな目でジョセフを睨む。 「うむ。DIOの血が流れておるんでの、念を入れて波紋を自分の体に流そうとな……」 先程までの文字通りの死闘を潜り抜けた安堵感が、祖父と孫の間に流れたその瞬間ッッ!! 「ッッッ!!!」 「な……なんじゃあこれはァ~~~~!!?」 突然救急車の中に現れる、眩く光る“鏡”ッ!! 新手のスタンド使い!? 祖父と孫に流れ始めていた安堵感は即座に吹き飛び、二人の男が戦士の表情へと変わるッッ!! スタープラチナ、ハーミットパープル、二体のスタンドが発動する……が、鏡は承太郎とジョセフではなく、DIOへ向かって動き出していたッッ!! 「!!! スタープラチナッ……」 「いかんッッ!」 承太郎は自らのスタンドの能力を発動させようとした。しかしジョセフは…… (あの“鏡”が一体“何”なのかはちっともわからんッッ!! じゃが…あの鏡にDIOを触れさせてはいかんッッ それこそ! 本当に! わしらの旅が台無しになってしまうッッッッ それだけはッッッッ させてはならんのじゃあああああ!!!!) 根拠があったわけではない。 しかし、ジョセフには奇妙なまでに強い『“鏡”をDIOに触れさせてはいけない』という確信があった。 DIOが祖父の死体を冒涜した怒りで高まり、時を止めるまでに至った承太郎の精神は……DIOを再起不能にしジョセフを蘇生させたという気の緩みからか……時を止めることは出来なかった! だがジョセフの試みは成功したッ! DIOの身体をベッドから全て蹴り落とし、代わりに自らが鏡へタックルするように飛び込んだッッ!! 「じじいーーーーーッッッッ」 時間停止を即座に諦め、鏡に引きずり込まれようとするジョセフを無理矢理に引きずり出そうとするスタープラチナッ!! 高い精密な動きと俊敏な速度を持つ白金の腕は、凄まじい勢いで引き込まれていくジョセフの腕を掴んだ……が、スタープラチナの力を持ってしても、ジョセフを引き戻すどころか! 引き込まれていく動きを留めるだけで引き込まれていくことには変わりがない! 「手を離せ承太郎ッ! お前まで引きずり込まれたらDIOの後始末を誰がやるんじゃ!」 「ふざけんなじじいッッッ 俺が生き返らせたってのにここでリタイアなんかこの俺が認めねェェーーーッッッ」 「心配するな承太郎! 何があってもわしは必ず帰ってくる! わしが帰らんかったらスージーにはわしは死んだと伝えておけ!」 「帰ってくるとか言ってるのに遺言残してんじゃねェじじいーーーーッッッ」 「落ち着け承太郎! ホリィから父と息子を同時に奪う気かッ」 その瞬間、スタープラチナの力が思わず緩む! 鏡はジョセフの綱引きに勝利し、一気に彼を引きずり込んだッ! 「ハーミットパープルッッッ!!」 ジョセフが鏡に飲み込まれようとする瞬間、ジョセフの左腕から伸びた紫の茨が彼の上着と帽子へと伸び、持ち主と共に鏡へと引き込まれる! 「いいか承太郎ッ! DIOの後始末はお前に任せるッ! あ……それともう一つッ!」 もはや今のスタープラチナでは鏡からジョセフを引きずり出せない。それを察した承太郎は、歯を食いしばりながら、鏡から僅かに覗いたジョセフの顔を睨みつけていた。 「なんだじじいッッッ!!」 「楽しい旅じゃった! 孫と旅が出来て、わしゃ本望じゃったぞ承太郎!!」 その言葉を最後に、ジョセフの身体は全て鏡に飲み込まれ……そして、鏡も、消えた。 「じじいーーーーーーーーーーーーッッッッ」 承太郎の絶叫が、轟いた。 To Be Contined → 戻る